「正しいこと」がいつも必ず正しいとは限らない

「流暢なことは言っていられない」

ん? ある文章を流し読みしていて、この一文に目が止まった。
「これって……おかしくない?」

2月から受講を始めた、書くことを学ぶ講座。もうちょっと詳しく言うと、
「第三者に、2000字を最後まで読んでもらえる可能性を高くする」ことが
目的の講座だ。だから毎週2000字程度の記事を書く、という課題がある。
何十人もの受講生が、指定の場に、しめきり目指して自分の文章をアップロード
してくる。
ちゃんと添削してくださる方がいて、講座で学んだことが反映されていて、
記事として成立していると判断されれば、その講座の運営元のサイトに
掲載してもらえる。
5回の課題提出が終わったところで、掲載してもらえたのは2回。なかなか厳しいのだ。

《掲載されたのはこの2つ》
銀座のお姉さんのいるお店
「伝えたこと」と「伝わったこと」はイコールではない

講座が始まったとき、「他の受講生のものは読まない」と決めていた。
他の人の作品を読んだら影響されてしまいそうな気がしたからだ。
けれど、何度か回を重ねていくうち、他者から学ぶ姿勢も大切、と気づいた。
だから、掲載が決まった人の文章は、ざっと目を通すことにした。
自分との違いを知ることができたり、自分に足りないものは何かを発見できたり
するかもしれない、と思って。

「流暢なことは言っていられない」という一文を目にしたのは、その流れの中だった。
引っかかりを感じたものの、どこがおかしいのか、すぐにはわからなかった。
前後の文脈からして、のんきに構えていられない、という切羽詰まった状況を
語っている箇所だった。「ああ! 悠長なことは言っていられないのことか……!」
と気づいたのは、少し経ってからだった。
それでも、確信が持てないときはちゃんと調べる、を是としているので、
辞書で流暢と悠長の両方を調べてみた。
「よかった、私の理解は間違っていない」

最初に感じたのは、なぜこれが掲載されるんだろう……という素朴な疑問だった。
流暢と悠長ではまったく意味が違う。真逆だ。添削しているのは文章のプロ。
ならば見落とすはずがない。なのになぜ……。
自分が掲載されなかった理由、足りていなかった点を反省するよりも先に、
言葉の意味を取り違えているこの文章が選出されたことに不満を持った。

左脳派、右脳派、という分け方のカテゴリーを使うならば、私は完全な左脳派だ。
イメージや創造力、想像力よりも、言語とか理論を使う。
だから言葉の使い方に対して、ものすごく敏感だ。

少し前に、ある海外の企業からメールを受け取った。
件名に「催促状」と書いてあった。「さいそくじょう……?」何かをオーダーして、
その料金を払っていない、なんてことやらかしてしまったのか? と焦った。
しかし中身をよく読んでみたら、それはその企業がおこなうセミナーにいらっしゃいませんか?
というお誘いのメールだった。
おそらく海外の企業が、自動翻訳などを使って英語を日本語に直し、
それをそのまま送ってきたからだろう。「これは案内状とするべきだよね」
と同じメールを受け取った人々と笑い話になった。

しかし、「流暢なことは言っていられない」は私の中で笑い話にはならなかった。
言葉の使い方が間違っているのに、なぜこれが選ばれるのか。
そのことにこだわり続けていた。
そこで、全文を読み直してみた。流し読みではなく、丁寧に。そして気づいた。
私の書いたものよりも、はるかに面白いのだ。読み応えがあるのだ。ためになるのだ。

ああ、これか。

本として出版されるものではない。Webに掲載されるちょっとした読み物。
言葉の使い方が少々違ったって、それを凌駕するほどの圧倒的読みやすさ。
「流暢なことは言っていられない」は、読者が「これ、悠長なことは、の意味だよね」と
軽く脳内変換できる程度のこと。

意味が正しくても、言葉の使い方が正しくても、読者に読みたいと思ってもらえなければ、
それは読み物としての正しさにはならない。
体裁を整えたり、正しく言葉を使ったりすることはもちろん文章を書く上でとても重要なこと。
でもそれ以上に、読者に「読み続けたい」と思ってもらうこと、
「閉じる」ボタンを押させないことの方が大事なのだ。

ある点での正しさが、その正しさを重ねただけで、もっと大きな視点においても
必ず正しいの集合体になるとは限らない。
第三者に2000字を最後まで読んでもらう可能性を高くする。
そのための正しさは、私のこだわりとは少し違うところにあるようだ。
そもそも、正しいか間違っているかの2択ではないのだろう。
そんなことに気づけた5回目の課題提出だった。

課題提出は全部で16回。本稿が6回目の提出となる。
最後の4回の提出で、3回以上掲載されると、ちょっとイイコトがあるらしい。
最後の4回がスタートするまでにはまだあと1か月ほどある。
私にはまだ伸びしろがあると信じたい。

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これは、文章を書くことを学ぶ講座の課題です。
6回目の提出となった本稿、いろいろ理由があって掲載にはならなかったけれど

「ネガティブ→ポジティブ、の流れが見事で、読み応えがありました!
リーダビリティも高く、掲載レベルのコンテンツでした」

というコメントをいただきました。嬉しい。

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