夢見る頃を過ぎても その4 「母親の言うことは大体正しい」

「夢見る頃を過ぎても」という連載の4回目。

渡した文章が記事として編集されるのは構わない。
ただしそれは、脈絡がおかしくならなければ、という条件つきだ。
渡した原稿と全く違う脈絡で掲載されてしまうのは、書き手である私が
おかしなことを書いたように見えてしまう。

なんてことを考えながら、ちょっとイラっともしたけれど、ここに
生原稿そのまま載せるから、まあいいや、と気を取り直す。
小さなことに、イライラしない!

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夢見る頃を過ぎても 第4回
「母親の言うことは、大体正しい」

母親の言うことは、大体正しい。いつも、絶対、というわけではないけれど、こと「人を見る目」や「何が似合うか」に関して言えば、かなり精度は高いのではないだろうか。
どうしてこんなことに思い至ったかというと、眠っている母をじっと見つめる、という出来事に遭遇し、なんとなくこれまでの色々を思い返す機会があったからだ。

先月、母が手術することになった。入院~手術~退院まで、1週間から10日ほどかかるという。症状はそれほど深刻なものではなかったが、なにせ彼女はお産以外で入院したこともなく、これまで体にメスを入れたこともない。

だから本人の心配具合は相当なものだった。手術が終って病棟に戻ってきたときの母の、まだ麻酔が効いて眠っている姿を眺めながら、「年取ったなぁ」とか「彼女が私の年の時には、もう成人した娘が2人もいたんだなぁ」とかいろんなことに思いを馳せているうち、いくつかのエピソードを思い出した、というわけ。

うーんと昔。当時の私のボーイフレンドは、鏡が大好きな、ちょっとナルの入った(笑)、いくつか年下の男の子だった。周囲の人にも彼のナルっぷりはよく知られていて、鏡を見て髪を直す仕草を真似されたりもしていた。色々と手をつけるのが好きで、でもクロージングにはなかなか持っていけない人だった。ただし当時の私には、「いつ会っても身支度完璧で、好奇心旺盛なステキな人」として映っていた(超ポジティブ!)。

あるとき、彼と私と母の3人で食事をする機会があった。時間にして2時間少し。食事が終り、彼が帰り、私と2人になった母は言った。「器用貧乏なナルシスト、って感じね」と。
その時母と彼は初対面。しかも2時間少しでそう判断しますか、そーですか。娘のボーイフレンドをそんな風に評価するなんて!

ところが彼のことをよく知っている女友達に母のその言葉を聞かせたら、大爆笑された。そして、ものすごーく納得していた。そうか、そういうことなのか…。

 2年くらい前。母が、持っている指輪ほか貴金属を私と妹に分ける、と言い出した。
「私が死んだ後、あんた達に『たいしたものないわねぇ』とか言われながら、形見分けみたいなことされると思うとシャクだから、今のうちに分けておくわ」と。
そして母は、どれを私に渡すか、どれを妹に渡すか、前もって決めていた。妹と2人で実家に行き、それぞれに分けられたものを前に、1つずつ指にはめたり首に巻いたりしながら、母の見立てがほぼ完璧だったことに驚いた。

妹が、「これはしないな~」と言ったものが1つあって、それを私の方に加えたくらいで、それ以外はほぼ、母が分けた通りを気に入り、貰ってきた。どんなものが好きか、似合うかを考えながら分けたのだろう。妹も私も実家を離れて久しいが、母親って娘のことをよくわかっているんだな、としみじみ感じたものだ。

母と娘って、難しい時期がある。反発したことも、ぶつかったことも、30代40代女子ならば、1度や2度ではないだろう。けれど、それらはすべて、母が娘を思ってのこと。自分が年を重ねて「あの時の母の言葉の意味」や、「なぜあのことに反対されたのか」などわかる時がきっとくる。仕事をはじめ、自身を取りまく色々なことに忙殺されがちな世代だけれど、60代70代となった母親とゆったり過ごす時間を、もっとたくさん持ってもいいのかもしれない。 

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